霖雨

音を立てずに街を濡らしていく雨が、全ての音を消していく―

静かだった。
余計な音は一切無く、聞こえるのは時任の穏やかな寝息だけ。
俺の膝に頭を乗せて、安心しきった表情で眠る時任に穏やかな目を向け、
誘われるまま、その柔らかい髪をゆっくりと撫でる。

そうしている内に短くなった煙草を灰皿に押し付けて。
新たな煙草に火をつけようとして、その箱が空になっているのに気が付いた。

煙草は取りに行けば新しい物がある。
でも、眠っている時任を起こしたくはない。
どうしようか、と考えを巡らせていた時。

「なあ、久保ちゃん。雨が止むまではさ……」

不意に時任が眠たげな目を擦りながら、ゆっくりと身を起こした。
そして、眠気が抜けない所為か、どこか緩慢な動作で肩に撓垂れて
ふわり、と唇を掠める位の軽いキス。

「煙草じゃなくて、コッチにしねぇ?」
「……雨が止むまでだけなの?」

その言葉に時任はちょっと笑って。

「煙草吸わない間だけ」

答えを耳打ちすると、またさっきまでと同じように膝の上に頭を乗せて、眠りについた。

「……そんなこと言われたら、煙草吸えないじゃない」

でもまあ、それも悪くないかもね?
気持ちよさそうに眠る時任に釣られるように、不意に訪れた眠気に目を閉じる。

こんな時間が続くのなら。
もう、ずっと雨でも構わない―