白昼夢

口の中が嫌に渇く。
起き上がって水でも飲みに行けば良いのだろうが、身体を蝕む高熱が動く事を拒否していた。
うつらうつらと遠退く意識。
ふと頬に冷たい掌を感じた。

―ああ、水を持って来てくれたんだな。

自分以上に自分の事を理解ってくれる相手だから。
閉じかける目に逆らいながら、必死に相手を視界に入れようとした。
何故か、安心させてやらないといけないと思った。
きっと、態度には出さずとも酷く心配してるだろうから。

「     」

ありがとう、と声にならなかった。
口が、厭に渇く。

「……あれ」

不意に身体が軽くなった気がした。
時計の針の音を聞くとも無しに聞いてる内に、ぼんやりしていた頭が少しずつはっきりしてくる。

「夢、に決まってるよね」

叔父である葛西の家を出てからは、一人暮らしを続けていた。
そもそも自分が誰かと一緒に生活しているなんて、想像もつかない。
熱は大分引いているようだった。
多少、ふらつきながらもキッチンまで行き水を飲める程度には動ける様になっていた。
壁に凭れながら、夢の断片に思いを馳せる。

「嫌、では無いけど」

少なくとも、居心地の悪さだけは感じなかった。
ただ、苛立ち振り回されるのは間違い無く相手の方だ、と。
半ば自嘲にも似た笑みを浮かべた。