since 2005年8月12日
「なぁ、どこ行くんだよ?」
「うん?ナイショ」
「ふーん。べつにいーけど」
「もう少しで分かるから」
少し前。
夜になって朝から降り続いていた雨が上がり、久保田が突然、「出かけるよ」と言い出した。
「どこに?」と時任が聞いても、久保田は「ナイショ」と言うだけで行き先は伝えられなかった。
そして、行き先も分からず久保田に付いて歩くのは普段、コンビニへ行く道とは逆の方向。
久保田が何処へ行こうとしているのか、時任には見当も付かない。
「あ、そーだ。ビールも買っていこうか」
「は?」
黙って歩いていた久保田は突然、目に付いた自販機で缶ビールを2本買った。
「久保ちゃん、マジでどこ行くの?」
「もう着くよ」
やはりさっきと同じような答えが返ってきて、時任は流石に行き先を聞き出すのを諦めた。
そして、また二人で黙って歩き出す。
「あれ?」
しばらく歩いて、角を曲がった瞬間。
目の前をヒラリ、ヒラリと通り過ぎる桜の花びら。
目を向けるとそこは小さな公園で、大きな桜の木が一本立っていた。
「すげー……こんな所あったんだ」
「雨で散っちゃったかと思ったけど、綺麗でよかったね」
そう言って、久保田は時任に缶ビールを手渡した。
「夜桜もいいっしょ?」
「おう。それにしても、誰も居ねーな」
「雨だったからね。居るとしたら、余程の物好きさん?」
「それ、久保ちゃんじゃん」
「時任もでしょ?」
「俺は違うっつーの」
ちょっと笑って、まだ半分ほど残っていたビールを一気に飲み干す。
「久保ちゃん」
「うん?」
時任は隣に居た久保田に腕を伸ばして、下から覗き込むとそのまま引き寄せキスをした。
「大胆だねぇ」
「うっせーな。酔ってんだよ!」
「じゃあ、もっと酔わせてあげよっか?」
「これ以上酔わねーよ。バーカ」
そう言って時任はビールのせいだけではない、赤くなった顔を隠すように久保田から離れようとしたその時−
「久保ちゃ、」
不意に抱きしめられて、今度は久保田が時任にさっきよりも長い、深いキスを返した。
「酔った?」
「……酔った」
時任の答えに久保田は微笑むと、今度は軽いキス。
「続きは家に帰ってから、ね?」