reproach

猫が出て行った。
原因は些細な喧嘩だった。と思う。
正直、その内容と経緯は覚えていない。
ただ時任が「お前はいつもそうだよな!」と叫んでいた。
だから、きっと悪いのは俺なんだろう。
ドアを開けて出て行くその背中をただ黙って見ているしか出来なかった。

「だからって、それがどうして私がこうされる事に繋がるのよ」
「ダメ?」
「べつに、ダメって訳じゃ無いけど。いいの?」

裏切るような事をして。
見上げる目にそう問われているような気がするのは、きっと自分の中にそう思う気持ちがあるからだ。

「……ごめん、俺どうかしてた」
「寂しいんだ?」
「ん、そうかも」

本当は、誰でも良かったのかも知れない。
ただ、欠けた何かを誰かの体温を感じて埋めたかっただけ。
相手を傷付けるだけの身勝手な振る舞いに、酷い自己嫌悪に苛まれる。

「俺、やっぱ帰るわ」
「そ。ほんと、私って損な役回りよね」
「……ごめん」

呆れとも諦めともつかない笑み一つで自分を赦したアンナの細い肩を 初めて抱き締めた。