それでも足りない

何度眺めた所で時計の針がさして進む訳でも無く。
ならば気にしなくて済むように、と点けたテレビはどの番組も総じて面白く無いときた。
早々に気を紛らわす事を諦めて、もう見飽きた時計を再び見上げた、その時。
玄関の方から微かな物音。
寝ている事を気遣ってか、珍しく自分で鍵を使って入ってきた様子に文句を言うタイミングを逃してしまう。

「あれ、起きてたんだ?」

寝てれば良かったのに。
ぽんぽん、とあやすように頭を叩く腕を掴む。

「おっせーんだよ、久保ちゃん」

屈め、という代わりに掴んだ腕をぐい、と引き寄せて。

「おかえり」

ただいま、なんて言葉だけじゃ足りないから。
言いかけた唇を先に塞いだ。

5月23日キスの日SS