since 2005年8月12日
マニキュアで綺麗に彩られた右手の爪がコツ、コツ、と規則的にテーブルを叩き小さくリズムをとる。
反対側の左手で頬杖をついたまま、眺めた向かいの席に座る相手は何処と無く不機嫌そうに窓の外を眺め続けている。
「ねえ、」
「……なんだよ」
「せっかくきれーなお姉さんとデートしてるんだから、もうちょっと楽しそうにして見せたらどうなの?」
そう、声を掛けてみれば。
「デートじゃねえよ。相変わらずケバいかっこしたねーちゃんに拉致られたんだっつーの」
そんな短いスカート穿いてたら風邪引くぞ、という心配付きで楽しそうとは程遠い、仏頂面でそう悪態を吐いた。
「じゃあ何?ケータイの電池を切らしたまま駅前でいつ来るかも分からない誠人を待ち続ける君を外に放っておいて、
私に一人でお茶をさせようって言うの?そんなの私の心証に悪いじゃない」
それでここまで引き摺られてきた俺の心証はどうでもいいのかよ、とぼやく声が聞こえたが、一口サイズに切り分けたケーキをフォークに突き刺し、差し出しながらにこりと笑う。
「はい、あーん」
「……ぜってーやだ」
「何恥ずかしがってるのよ?」
「何だよ、どう考えたって普通の反応だろ!?」
「ふーん。誠人が相手ならこういう事でも平気でするくせに」
「な、してねーよ!」
「うそ、私この前見たもん」
「嘘つけ!!」
「うん、嘘」
さらりと答えて、眼前に突き出したフォークを引っ込めると、あからさまにほっとしたような表情をされた。
それが、何となく悔しくて。
少し考えてから、苺にフォークを突き刺して再チャレンジ。
「はい、あーん」
「…………」
するとさっきまでの態度は何処へやら、考えるような沈黙と窺うような上目遣いを向けられ、最大級の笑みと共に最後の一押し。
「女の子に恥をかかせるつもり?」
「〜一回だけだかんな!!」
負けず嫌いの彼らしい敗北宣言と共に、フォークの先から苺が消えた。
宛先:誠人 件名:駅前のカフェで 本文:時任君とデート中