うーん、ちょっと遅くなっちゃったかな?

―ちょっとセブンまで行ってくるね。

そう時任に言い残して家を出たのが21時頃。
ケータイの時刻表時は既に22時。
家を出てから優に一時間が経っていた。
さすがに連絡ぐらいしないとマズイよね?
時任になんて言い訳しようか、と考えながらケータイのボタンを押すと。

『遅せーよ、久保ちゃん!』
「うん、ごめんね?」

少しの間も置かず、すぐに電話に出た時任に笑い出したくなる。
もしかして、ずっと手にケータイ持ってたの?
俺からの電話にすぐ出られるように。
だとしたら。

『なに笑ってんだよ』
「べつに?何でもないよ」

かわいいな、と思ったけどこれ以上拗ねられても困るから、そこは適当にはぐらかす。
うん、拗ねた時任も可愛いんだけどね?

『ぜってー嘘だ』
「そんな事ないって。あ」
『なに?』
「外、出てみなよ」
『外?ベランダでいいのか?』
「うん」

ケータイの向こうで時任が動く気配がする。
ほんの少しの間を置いて、ガラガラと窓を開ける音が聞こえた。

『出たぞ?』
「上見てみな?」
『上?……すげー、満月じゃん!』
「ね、キレイっしょ?じゃあさ、今度は下見てみよっか?」
『下?……って、久保ちゃん!?』

時任の驚き様に、今度はさすがに堪えきれずに笑い出した。

「おまえ、ほんと面白いわ」
『ずっとそこに居たのかよ!?』
「いや、今帰ってきたとこ」
『んな所に居ねーで、さっさと上がって来い!』
「りょーかい」

帰りましょーか。愛しの猫の元に。

「開けて、時任」
「おせーよ」

ドアを開けた時任はやはり不機嫌そうで。
だけど。

「おかえり」

いつもそうやって出迎えてくれるから。

「ただいま」

きっと、この言葉が言えるんだ。