since 2005年8月12日
正直、俺は困惑していた。
「……で?」
欲望に任せた勢いであの悪名高い(奴らに言わせればその立場は逆転するのだろうが)生徒会執行部の、それも時任稔を、隣に相方である久保田の存在が無いのを良い事に襲い掛かり押し倒してみたのだが。
「で、って……お前、これから何されるのか分かってんのかよ」
どうせ抵抗され激しく殴られるなり蹴られるなりして逃げられるのがオチだ。
そう思っていたのに、眼下の時任は抵抗どころか身動ぎ一つせず俺を見上げ、事もあろうか笑みさえ浮かべていた。
「お前、俺の事ずっと見てただろ。どうせその内手を出して来るだろうと思って待って たのに、いつ迄待っても来ないからさぁ」
わざわざ俺の方から手を出させに来てやったんだよ。
「それより良いのかよ。せっかく久保ちゃん追い払ったのに、もたもたしてたらすること何も出来ないぜ?」
これが、本当に俺が知っている時任なのか。
その身体を押さえ付けているのは自分の方なのに、狐に摘ままれている様な気分で身動きが取れない。
「……残念。時間切れ」
「え、っ!」
それまで笑みを浮かべていた時任がふと真顔になりそう呟いた瞬間、背中に激しい衝撃を受けた。
痛みのあまり呼吸も儘ならず廊下を無様に転がりながら見上げた視線の先には、久保田と並んで歩くいつもの時任の姿があった。
「お前ね、その手いい加減止めない?」
「俺に変な幻想抱く方が馬鹿なんだよ。そんなのこっちから叩き割った方が早いに決まってんだろ?」
ご愁傷さま、久保ちゃんがそう呟くが聞こえないフリ。
「それよりアイツ、何て名前?」
「あー……訊き忘れたけど。ま、どうでも良いじゃん」
どうせ、二度と関わる事も無いだろうから。