fang

強引に押し倒されれば、いくらスプリングの利いたベッドといえども多少の痛みは感じる訳で。

「ってーな、何すんだよ」
「何って何?だって時任が望んだんじゃない」

時任の抗議をそう切り捨てて、久保田はにっこりと、でも何処か冷めた色を携えた瞳で時任を見下ろし嗤った。

「は、誰がいつ望んだって?自分に都合の良く解釈してんじゃねーよ」
「あれ、違った?俺はてっきり時任に誘われてるんだと思ったんだけど」

じゃなきゃ、この寒いのにタンクトップ一枚で寝ようなんて思わないっしょ?
久保田はそう言い紡ぐとタンクトップの首元から覗く紅い痕、自分には付けた覚えのないソレに指を添わせ、ぐっと爪を立てた。

「俺が何着て寝よーが、勝手だろ。つーか、痛い」

時任は僅かな痛みに顔を顰めると、久保田の手を払い除ける。

「うん、そうだね」

思いの外あっさりと久保田の手が離れた事に時任は意外そうな表情を浮かべた。
次いで自分に圧し掛かってた久保田の体重からも解放されて、時任は思わず瞠目する。

「なぁ、しねーの?」
「何、やっぱりして欲しいんじゃない」

久保田に笑いかけられて、時任は「しまった」と舌打ちする。

「べつに、そんなんじゃねーよ」
「あっそ?まあ、俺は別にどっちでもいいけど」

再び久保田に圧し掛かられ、両腕を頭上に固められる。

「久保ちゃんこそ、しねーんじゃなかったのかよ」
「俺はするともしないとも言って無いもん」
「屁理屈」
「お互い様」

久保田の手がタンクトップの裾にかかる。
脱がせる為にたくし上げれば、その手の動きに合わせるように時任が背を浮かした。
その様子に久保田がまた愉しそうに笑う。

「ね、時任。俺の事、好き?」
「好き」
「そう。じゃあさ、」

肩の辺りで中途半端に止まってたタンクトップから頭を抜かせて、押さえ付けたままの手首の方に押しやる。
ちょうど絡まって俺が手を離しても自由が効かないのは、計算の内。

「この痕、付けたのって誰かな?」
「教えない」
「なんで?」
「そんなの決まってるじゃん」

相手を庇う為だったら、どうしようか。
時任の答え次第では、殺しちゃうかも知れないね?

「俺が楽しいから」
「そう……良かったね」
「は?何が、っ」

ぷつり、と首筋の薄い皮膚が切れる音がした。
鋭い痛みと熱を持った疼くような痛みが同時に押し寄せ、時任は顔を顰める。

「……変な噛み癖とか付けてんじゃねーよ」
「ごめんね?何か楽しそうだったからさ、つい」

時任が何かを言おうと口を開く。
言葉になって発せられるよりも先にまた違う痕に歯を立てれば、それは短い悲鳴にしかならない。

「こ、の駄犬が……っ!」
「うん、最高の褒め言葉」