since 2005年8月12日
朝方から降り続く雨が、昼近くになって激しさを増す。
電気を点けていても薄暗いリビングで、時任は意識するまでも無く自分を組み敷く相手を冷めた目で見上げた。
「なに、こんな昼間から」
「何って。この状況ならする事なんて、一つしかないっしょ?」
そう言って久保田は笑うが、目だけは冷たく時任を見下ろしていた。
抵抗はしない。
そんな事をした所で、これからされるであろう事を回避出来る訳でも無く。
まして、この男を楽しませてやる義理も無い。
だから長い指先にシャツのボタンを一つずつ外されていくのも、やけに冷たい手掌が肌をなぞるのも、どこか他人事のように見つめていた。
そんな時任を見て久保田は皮肉めいた嘲笑を浮かべる。
「ふーん、滝さん相手ならいくらでも可愛い声出す癖に、俺相手になると途端に不感症になる訳だ」
「そんなに聞きたきゃ、いくらでも声出してやるよ。演技で良ければな」
「じゃあ、滝さんはいつも時任の名演技に騙されてるんだ。可哀想にね」
「俺に言わせりゃ、そーいう発想にしか至れない久保ちゃんのがよっぽど憐れだけどな」
笑い合う二人の間には、やはり甘い空気など微塵も無く。
重ねた唇も到底キスとは呼べず、ただ戯言を止めるだけのものに過ぎなかった。