syndrome(疑似的恋愛症候群)

好きだ、と言われて「またか」と嗤った。
目の前に立つ男子生徒は気の弱そうな、それでいて何処か欲望めいた瞳だけが異様に目立って。

キモチワルイ。

名前どころか顔すら禄に知らない相手の、形ばかりな愛を吐いた唇をキスで塞ぐ。
それに少しばかり面食らいながらも、いきなり舌をねじ込もうとする横柄な態度にも反吐が出る。
告白は放課後の屋上で、なんて展開もベタすぎてちょっと笑えない。

「……なぁ。やっぱりあの噂って、マジなのか?」
「だから俺がこうやって来てやってんだろ?」

―久保田が女に告白された日は時任にヤらせて貰える。

ほんの気まぐれで自ら流した噂は、思った以上に広がりを見せていた。
未だに信じられない、という表情を浮かべ続ける相手に向かって時任は極上の笑みを見せる。

「早くシようぜ?」

その一言が、既に浮つき始めていた男子生徒の心に完全に火を点けた。
しかし彼はは気付かない。
時任の艶を孕んだ視線が自分を通り越した、その先に向けられていた事を。
そして。

「っ!!」

伸ばした手が時任に触れようとした瞬間、背後から息が詰まるような激しい蹴りが放たれた事を。

「あ、久保ちゃん。女子からの告白のついでなお迎えごくろーさま」
「なにそれ。俺への当てつけ?」

何の悪気も邪気も感じさせず、にこりと綺麗に笑う時任と何人目とも知れない自分が蹴り倒した男子生徒に一瞥をくれると、久保田は時任の腕を掴み屋上を後にする。

「ていうか時任さー、いつまでこんな趣味の悪い遊びを続けるワケ?」
「久保ちゃんが女からの呼び出しに応じなくなったらやめる」
「時任があのふざけた噂流すのやめたら、すぐにでも止めてあげるよ」
「あっそ。じゃ、交渉決裂だな」

残念。
わざとらしい仕草で肩を竦め背を向けた時任に、久保田は小さく溜息を吐いた。

―ね、時任
―なに?
―前から聞きたかったんだけどさ、
―だから何だよ
―本当に俺のことが好きなの?
―……うん

嫌になるくらい愛してる。