since 2005年8月12日
俺はよく他人から何を考えてるか分からない、 なんて言われるけど。
俺に言わせれば時任の方が何を考えているのか分からない。
時任は単純で分かりやすい、っていうのが学内を始めとした世間一般の 見解だろうけど。
それが計算しつくされた偽りの姿だって、どれほどの人間が気付いてる?
「ただいま」
「おかえり。遅かったね」
今日も、という言葉は笑顔の下に飲み込む。
「今日は誰の相手をして来たの?」
「知らね、興味ねーし。たぶん3組か4組のヤツだと思うけど」
時任は、自分に人気があるのを知ってる。
自分に向けられる感情が憧れや羨望だけでない事も。
それを敢えて気付かない振りをして、無邪気を装って、 自分に有益な人間(モノ)を最大限に利用する。
俺というオモチャで遊ぶだけのために。
「……楽しかった?」
「まぁな。それなりに楽しかった」
「そう。それは良かった」
そりゃ楽しいだろうね。それは俺へのイヤガラセ。
「でもさぁ、あいつ見えるトコに跡つけやがったんだぜ?下手くそな癖に気取りやがって、超迷惑」
ほらココ、と時任は俺に見えるようにパーカーの襟元を引き下げた。
色濃く残る情事の痕跡を見せつけられた瞬間、頭の中で何かがキレたような錯覚を覚えて。
気が付けば時任の腕を捩り上げて壁にその身体を押し付けていた。
「……なに?」
「本当に楽しい?」
「なにが」
「そーやって毎日毎日、誰彼構わず男を咥え込んで俺の所に帰ってくるのが。そんなに楽しい?」
微笑みながら問いかける久保田の口調はあくまでも優しいものだった。
「そんな事聞いてどうすんだよ」
「質問してるの俺なんだけど。答えてくれない?」
しかし、時任の腕を掴む力は骨が軋みを上げるほどに強い。
「別に。何とも思ってねーよ」
「ふーん。何とも思ってないと、誰とでもこーいう事しちゃうんだ」
だが、顔色ひとつ変えることのない時任の答えを聞いた久保田は不自然なまでに抑揚のない声でそう紡ぐと、壁に時任の身体を押し付けたまま、今まで抑え込んでいたもの 全てをぶつけるかのように、その唇を貪った。
抵抗して舌を噛み切られる位の応酬は覚悟していたが、時任は予想を裏切り自分から舌を絡ませた。
その事が却って時任が「慣れている」という事実を突き付けられるよう で、久保田の機嫌はさらに降下の一途を辿る。
そして忌々しい思いのまま、自ら突き放すように口付けを解いた。