since 2005年8月12日
今はもう使われることの少ない、埃っぽい空き教室。
がらんとした教室内で時任は退屈そうに足を組みパイプ椅子に腰をかけていた。
傍からみればそれは暮れ行く窓の外を憂い、眺めているように見えただろう。
だが実際には時任が眺めているのは窓の外ではなく、床から窓の間で、壁に背を預けるように座らせた大塚だった。
その手は後ろ手に拘束され、満足に身動ぐ事が出来ない。
時任は時折足を組み替えるが、それは上履きの褄先で大塚の脇腹や大腿、その内側を擽り楽しむ時と、それに飽きた時だった。
「どうだ?今の気分は」
「最、悪だ……」
「ふーん?」
時任の右手が大塚の頬に触れる。
嵌められたグローブの冷やりとした感触に大塚の背が震え、時任の目が愉しげその姿を映した。
「その割りにはしっかり感じてんじゃん?」
時任の言う通り、大塚は身体中を苛む熱に苦しめられていた。
だがそれは時任に飲まされた訳の分からない薬の所為だ。
「俺をどーする気だよっ」
「さぁな。どーして欲しい?」
何もする気が無いのなら、さっさとこの場から逃がして欲しい。
だがそれは、時任が自分を捕えた時点でもう叶わないと分かっていた。
それに、認めたくはないが事あるごとに捕まっては蹂躙の限りを尽くされ時任に慣らされた身体は媚薬などなくとも、簡単に火がつくようになってしまっていた。
逃がせろ、とも言えなければ何とかしろ、とも言えない。
それが更に時任を愉しませているという事も。
何もかも時任に踊らされてる悔しさに、知らない内に唇を噛み切っていたらしい。
滲む血に気付いた時任が、そっとその血を舐めとる。
「そう焦るなよ。多分もうすぐ、」
言葉を切った時任が、ふとドアに目を向ける。
「時任?」
「久保ちゃん!」
タイミングよく現れた久保田に、時任が駆け寄った。
「おっせーよ。俺、待ちくたびれた」
「ごめんね」
身体を擦り寄せ腕を絡める時任に久保田は甘い笑みを浮かべると、視界に入った部外者に冷たい目を向けた。
「時任、それお客さん?」
「久保田、頼む助けてくれ!」
無駄、と知りつつも久保田に助けを求める。
それ程までに大塚は心身ともに切迫していた。
「なに、助けて欲しいの?」
「ああ!助けてくれるなら、パシリでも何でもするから!!」
久保田の言葉にいつにない慈悲を感じ、大塚は縋るような目を向ける。
だが、それも次の一言で砕かれた。
「だってさ、時任。どうする?」
「ん、却下」
「そーいう訳だから。ごめんね?」
本当にすまなそうな久保田の表情がいっそ憎らしい。
今すぐに力の限り殴りつけてやりたい所だが、手首を縛られた状態で―まして媚薬の回った身体ではどうする事も出来なかった。
「なぁ久保ちゃん。あんな奴のことは放っておいて、シよ?」
「ここで?」
「そう。だから久保ちゃん此処に呼んだの」
「時任、また新しい遊び覚えたんだね」
時任の悪趣味は何も今に始まった事じゃない。
それに、ダメ?と可愛らしく強請る時任に否を告げる道理は無い。
「おい、俺はどーするんだよ!?」
このまま放っておけば間違いなく目の前で繰り広げられるであろう情事に、大塚は慌てて自分という存在を思い出して貰おうと叫んだ。
その声に久保田が大塚の方を振り向く。
時任がすぐに久保田の視線を自分へと戻させると、大塚など無視しろとでも言うように唇を重ね強く舌を絡めた。
「時任……」
久保田の余裕の削がれた声に、時任の唇が妖しく弧を描く。
ちらりと向けられた時任の視線に、大塚はもう逃げられないと自分の運命を悟った。
お前なんか仲間に入れてやんない