recidivism

「久保ちゃん」

これで何度目、だなんて数えちゃいない。
数える気にもならないほど回数を重ねても、呼ばれている本人は返事をしないし、振り向きもしない。

「なぁ、久保ちゃんってば」

完全な無視。 でも、聞いてはいるハズだ。
その証拠に、広げられた雑誌はずっと同じページを開いたまま、一向に捲られる気配がない。
ソファーに近付いて、隣ではなくその足元―久保ちゃんの膝に凭れるように座る。

「何怒ってんの?」
「……分からない?」

漸く返ってきた声はいやに冷ややかで、却ってそれが俺を満足させた。

「俺が四組の奴とヤったから?」
「へえ、あいつ四組だったんだ」

久保ちゃんが読んでいた雑誌を床に放り出す。

「昨日が二組で、その前が三組。ああ、五組の時もあったっけ」

空いた掌が俺の頬に触れ、ゆっくりと撫でられる。

「ね、俺ってお前のなに?」
「コイビト」

迷わず即答する俺に、久保ちゃんは満足そうに笑う。

「そうだよね。じゃあさ、」

久保ちゃんが、頬に当てていた手を頤の方へとずらす。
親指が唇をなぞった。

「俺が未だにキスもさせて貰えないのは、どうしてかなー?」
「だって、久保ちゃん優しいから」

つまんない。
意識していじけた風を装った声を出しながら、未だに唇を撫でる指を口内に誘い込む。
一頻り舐ってやってから、力加減なく噛みついて思いっきり歯形を残した。

「そ。じゃあ、楽しいコト教えてあげるよ」

久保ちゃんは、顔色一つ変えない。
次の瞬間、今までの扱いが嘘のような力でフローリングに抑え付けられた。
咥えたままだった親指で更に喉の奥を撫でられる感覚に耐え切れず、反射的に嘔吐く。

「二度と他の奴とヤろうなんて気になれないように、ね」

生理的に浮かぶ涙で滲んだ視界で捉えられたのは、情け容赦を一切感じさせない、久保ちゃんの冷たい笑みだけだった。