discipline

「いい様だな、久保ちゃん」

時任はそう言って自らが作り出したこの状況―両手を後ろ手にきつく縛り上げ身動きを封じた久保田を満足そうに見下ろした。

「俺様天才だろ?」
「どうせまた睡眠薬か何かに頼ったんでしょ?回りくどい事しないで、シたいなら素直にそう言えば?」
「よく言うぜ。自分から手を出せないから俺に言わせたいだけのくせに」

愉しげな声と笑みさえ浮かべた表情とは裏腹に、久保田を見下ろす瞳は研ぎ澄まされたナイフのような冷たさを含んでいた。

「だから―」

時任の手が久保田の頬に触れる。

「お前にも言えるようにしてやるよ。させて下さい、ってな」

覗き込むその瞳に視線に捕らわれた瞬間、見えない鎖に身体を内側から雁字搦めにされたような錯覚を覚えた。
幾重にも絡み付き、呼吸も侭ならない。

「なんだよお前、目ぇ開けたまま寝てんじゃねーよ」

その呪縛が解けたのは、時任が触れるだけの口付けを寄越した時だった。

「人がせっかくヤらせてやろうと思ってんのにさ」
「こっちだって頼んだ覚えは無いけどね」
「頼んで無いんじゃなくて、頼めないんだろ?物欲しそうな顔しやがって」

言いながら時任は久保田が着ているシャツのボタンを、ゆっくりと外していく。
外気が触れるほど暴かれていくのを強く感じ、久保田の肌がゾクリと震えた。

「少しは素直に頼む気になったか?」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」
「へぇ。すぐに堕ちるかと思ったのに、なかなか強情じゃん」

面白そうに口角を吊り上げた時任が、殊更ゆっくりとシャツを剥いでいく。
露わになった久保田の肌に唇を寄せ、触れそうになったその時―

「甘いね、時任」

いつの間にか自らを束縛していた縄を解いた久保田が形勢逆転とばかりに時任を押さえつけ、にこりと微笑んだ。

「本当に縛る気があるなら、手首だけじゃなく腕の方までしっかりね。教えたでしょ?お前の身体で」
「優しい俺様がお前の為に逃げ道を用意してやったのが、分かんねーのかよ」
「そーいう事にしておいてあげるよ。その方が俺に『お願い』させられなかったお前が悔しく無いもんね?」
「ムカつくな。久保ちゃんのくせに」

低俗な言葉の応酬を早々に切り上げるべく、久保田は時任の唇を己のそれで塞いだ。

「一応言っておくけど、俺様は一回しかスるつもりないからな」
「どーぞ?今度はお前が俺にお強請りする事になると思うけどね」
「上等じゃねーか」

やれるもんなら、やってみろ。