necessity

「ふざけるのも大概にしなよ」

ベッドから突き飛ばした時に何処か打ち付けでもしたのか、耳障りな呻き声が上がる。
二人だけの空間―家の中でも特に神聖な場所である筈の寝室を穢した男だ。
どうなろうと、知ったことではない。
たとえ、それが時任が自ら連れ込んだ客だったとしても、だ。

「前に言ったよね。俺じゃない誰かが、お前に触れるのは許さないって」

俺を目の前にして怯える男に反して、時任はベッドの上で薄らと笑みを浮かべるだけだ。

「その腕、二度と使い物にならないようにしてあげようか」

―もう、時任に触れる事など出来ないように。
時任から男に再び視線を戻して、その腕に手を掛けた、その瞬間。

「待てよ。そいつ、全然俺には触ってねーぞ」
「へぇ。こいつの事、庇うの。そんな見え透いた嘘、よく居合わせた俺に言えるね」
「そうじゃなくて、」

冷笑する久保田を、時任が臆する事無く自分の側まで引き寄せる。

「俺を、久保ちゃんじゃない奴なんかに触らせる訳ねーじゃん。だから、こうやって、」

久保田に抱き付いた時任が、ゆっくりと自分の体重をかけていく。
無抵抗な身体は、簡単にベッドへと沈んだ。

「俺が、喰っただけ」

自分の上で艶やかな微笑を浮かべる時任を見上げ、久保田は諦めにも似た溜め息をついた。

「お前はさ、なんでいつもそうなの?」
「だって久保ちゃん、昨日はシてくれなかったから」

―ちょっと摘み食いしちゃった。
言い開く時任に、罪の意識など、これっぽっちも無い。

「まったく、お前には敵わないね……おいで」

その言葉を待っていたかのように、嬉々としてキスを強請る時任に久保田は目を細め、既に乱れていたシャツに手を掛けた。