ココア

インスタントコーヒーの瓶に伸ばしかけていた手を、ちょっと考えてから引っ込める。
リビングの方を振り返れば、さっきから欠伸をかみ殺しては、赤い目をしばたかさせている同居人。
目に留めてから、再び食器棚に手を伸ばす。

「ねえ、」

呼べる名前が無い背中に、声をかける。

「ココア淹れたんだけど。飲んだら?」
「……飲む」

ゆっくりと振り返って、それから。
それから―