in the room

時任がこの401号室に住まうようになって、2週間。
今さらお互いに気を遣うような間柄でもないが、それでもやはりどこかで気を張っていたようで。

「時任、気分はどう?」
「……サイアク」

昨日の晩、時任はついに熱を出した。

「あー悪いな、ベッド。今日は久保ちゃんが使う番なのに」
「そんな事気にしてんの?いいよ、良くなるまではベッド使ってな」
「だって、久保ちゃんの家じゃん」
「今はお前の家でもあるでしょ。今度そんな事言ったら、俺怒っちゃうよ?もしくは……」
「何だよ」
「泣いちゃうかも?」
「久保ちゃんが?ありえねー」

本当に可笑しかったようで(ちょっと傷つくけど)、けらけらと笑い続ける時任の調子が戻りつつある事に安堵した。
そして。
時任が寝返りを打った隙を狙って、ベッドに生まれた僅かな空間に身体を滑り込ませる。

「ぎゃー!俺のベッド!」
「だって、俺の家だもん。俺にだって使う権利はあるっしょ」
「久保ちゃん、さっきと言ってること違う……」

不意に近くなった久保田の体温に、時任は赤くなった顔を見せまいと逃げるように頭からタオルケットを被ってしまう。

「こーら、潜らないの。熱籠もっちゃうっしょ?」

久保田がタオルケットを引き下げると、それでも顔を見せたくないのか、今度は一分の隙間も無いほど近付き、胸の辺りに額をくっつけて低く唸った。

「久保ちゃんきらいだ」
「あそう?もう遅いと思うけど」

この状況で、これからどんな反応を見せてくれるのか。
ちょっとだけ気になって、暫く何もせずにいたら聞こえてくるのは、静かな寝息。

「あらら、寝ちゃったか」

その時、デジタル時計のアラームが控えめに日付が変わった事を告げた。

「ハッピーバースデー、時任」

目が覚めたら、どうかこの熱が下がっているように。
そんな願いを込めながら、いちばん近くて大切な存在であることを確かめるように、 そっと腕に抱き寄せた。

Happy Birtheday!