「久保ちゃんのバーカ」

よく晴れた土曜日の午後。
授業が午前中で終わるため、早く帰れると意気込んでいたその時。
例によって生徒会本部からの呼び出しを受けた。
そして、案の定久保田が駆り出され、時任は不貞腐れたように屋上のドアを開けた。
一人で教室に居るのも癪で、屋上に上がったのは良いが、結局ここでも一人には変わりない。
久保田が居なければ、どこに居ようと一人なのは変わらないのに。
気付いてしまえば、あまりに単純で。
手持ち無沙汰になって、時任は日の当たらない、だけど穏やかな風の暖かさは感じられる場所に寝っ転がった。

うとうとしてた所に、近づいて来たのは慣れ過ぎた気配。
目を開けるのも面倒で、そのままの体勢で確認する事もなくその名を呼んだ。

「……久保ちゃん」
「あれ、気づかれちゃった?」

目を開けると、やはりそこには優しげな笑みを浮かべた久保田が立っていた。

「俺に気づかれたくなかったら、風向き考えろっつーの」
「ああ、煙草ね」

久保田は大分短くなった煙草を消した。
……べつに、煙草を吸っていようがいないが、久保ちゃんの事ならすぐに分かると思うけど。
そう思ったが、言ってやるのもなんか悔しい。

「ま、俺様に気づかれないように、なんて無理な話だけどな」

時任はそう言うと、勢いをつけて起き上がった。

「帰ろーぜ、久保ちゃん」
「そーねぇ……」
「って、なにお前まで寝てんだよ!」

久保田は先ほどまで時任が寝ていた場所で同じように寝っ転がった。

「だって、天気良いし。このまま帰るのも勿体ないっしょ?」
「ふーん。べつにいいけど」

久保田がいいなら、それはそれで構わない。
時任も同じように隣に寝っ転がった。

「それにさ、時任だけなんてズルくない?」
「なんだよ、それ」

俺だって、好きでやってた訳じゃないっつーの。
悔しかったら、いつも隣に居やがれ。