マニキュア

手の爪にマニキュアを塗る時
私は決まって、幼い頃に母から聞いたおまじないを思い出す

―左手の小指にマニキュアを塗るとね、恋が実るのよ

母が施す綺麗なマニキュアを、羨ましそうに眺めていた私に
母はそう言って、悪戯っ子のように微笑んだ

だけどね、それは叶わないと思うの

おまじないに縋るような子供には、恋なんて関係ない事柄で
いざ大きくなって恋の一つや二つ覚える頃には
マニキュアを左手の小指だけに塗るなんて事はしないから
でも、どうしても
私がマニキュアを塗る時に、決まって左手の小指から塗り始めてしまう辺りは

「まだまだ子供って事かしら?」

聞く人が誰も居ない部屋で一つ呟いて、覗き込んだ鏡の中には
あの日の母と同じ、綺麗な微笑を浮かべた自分が居た