手を繋ぐ

「久保ちゃん、手冷たいよな」
「どしたの?急に」

時任が、何の前触れもなく煙草を持っていない方の俺の手に、自分のそれを重ねる。 それだけの事で心臓が飛び出しそうになる俺は、そろそろ救いようが無いほどの末期なんじゃないか、って感じ?

「煙草吸ってるからじゃない?」
「ふーん……」

時任が分かったような分からないような顔をして、煙草と握ったままの俺の手を交互に見比べた。

「煙草を吸うとね、中に入ってるニコチンっていう成分が毛細血管を収縮させるのね。で、血液が十分に行き渡らなくなって、手とか指先なんかは冷たくなるんだって」

その眉間に段々と深い皺が刻まれるのに苦笑して、理由を問われる前に解説をしてやれば。

「なんで血液が行かないと手が冷たくなるんだ?」
「そこまで説明するの?」

普段あまり披露する機会のない俺の講義に感動したのか、時任が子供のような好奇心そのままに身を乗り出してくる。

「血液が足りないと手が冷たくなるのは―、」
「なるのは?」

期待に満ちた眼差しに肩を竦めて

「それは俺にも分からない」
「なんだそれ!」

期待して損したーと笑う時任に「ごめんね?」と返して触れられたままの手を、そっと握った。